会社の売却価額の相場とは?相場以上で売却する方法についても解説

会社売却とは?

会社売却とは、会社を第三者に売却し、その対価を受け取ることです。

売却対象は会社が保有している資産や契約上の権利・義務などが含まれます。さらに資産とは、現預金、投資有価証券、営業用資産・不動産などの有形資産、知的財産などの無形資産などが対象となります。

会社の買収及び合併を意味するM&Aは買い手である譲受企業から見た言葉ですが、会社売却は売り手である譲渡企業から見た言葉といえます。

中小企業庁が公表している「中小企業白書」では、(株)レコフデータの調査結果が紹介されています。同サイトによれば、日本におけるM&Aは年々増加し、2017年には3,050件と過去最高を記録しています。

会社売却のメリット

上述のように会社売却は譲渡企業の視点に立った言葉です。譲渡企業から見た会社売却のメリットについて見ていきましょう。

会社売却の主なメリットは以下のとおりです。

  • 会社の存続
  • 売却利益の獲得
  • 雇用の維持

会社売却の最も典型的な理由は会社の存続、つまり廃業を回避するためです。中小企業庁が作成・公表している「中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題」によれば、日本では、中小企業の後継者不足が深刻化しています。後継者不在のまま経営者が引退すれば、会社は廃業となりますが、会社売却に成功すれば、会社を存続させることができます。すなわち事業承継の解決策として、会社売却をすることが考えられます。

会社が引き続き運営されることで、自分が引退しても、社員の雇用を維持することも可能になります。長い時間にわたって会社を支えてきた社員の雇用が維持されることは経営者にとっても安心でしょう。

さらに会社を売却することで、廃業費用が一切かからず無料になり、譲受企業から売却利益を獲得することができます。売却利益を活用して、安心して、セカンドライフを楽しむことができるでしょう。

会社売却のデメリット

会社売却にはメリットがある一方でデメリットも存在します。

会社売却の一般的なデメリットは以下のとおりです。

  • 社員の離職
  • 取引先の反発

会社売却を行うことで、株主や経営者が交代し、社風や経営方針が一新されることは珍しいことではありません。特に外資系企業や異業種に売却した場合には変化が大きいものになります。会社売却後の変化にストレスを感じたり、反発を覚える社員も一部で出てくるかもしれません。

また、新しい株主や経営者のもとで事業内容に変更が生じたり、取引先に契約内容の見直しを迫ることによる取引先の反発も予想されます。

このように経営者が築いてきた社員や取引先との関係性がマイナスの方向に変化することは喜ばしいことではありません。

会社売却でかかる税金

会社売却でかかる税金は個人と法人、また売却スキームの違いによって異なります。

売却スキームには株式譲渡と事業譲渡があります。

株式譲渡とは、株式会社の株主(主に経営者)が保有する株式を譲受企業に売却する方法です。

一方で事業譲渡とは、会社の特定の事業や部門を一個または複数、譲受企業に売却する方法です。

会社売却でかかる税金について表でまとめてみました。

売却主体個人法人法人
売却スキーム株式譲渡株式譲渡事業譲渡
税金所得税・住民税法人税法人税・消費税
税率所得税…15.315%住民税…5%法人税…27.74%法人税…27.74%消費税…10%
課税方式分離課税総合課税総合課税

会社売却の相場

会社売却の相場は企業価値の算定方法によって異なります。

主な算定方法は以下の4種類です。

  • 純資産法
  • DCF法
  • 類似会社比較法
  • 年買法

それぞれの算定方法について詳細を解説します。

最も簡易的な方法が年買法、規模の小さい企業では純資産法、規模の大きい企業では類似会社比較法やDCF法が採用されることが多いようです。

純資産法

純資産法とは会社のBS(貸借対照表)で確認できる純資産額(総資産-負債)を基に事業価値を算定する方法です。

純資産法には、さらに時価純資産法と修正純資産法があります。

時価純資産法では、会社の資産及び負債について時価評価及び簿外債務の計上などの調整作業を経て時価で企業価値を算定します。

一方で修正純資産法では、BS上に計上されている通り、帳簿価額で資産及び負債を評価します。

純資産法では、会社の技術力やノウハウなどBSに現れない要素を考慮できないため、営業利益3年分を加算することもあります。

会社の純資産を1,000万円、営業利益を300万円とすると、企業価値は以下のとおりです。

1,000万円+300万円×3年分=1,900万円

このように計算方法は明瞭かつシンプルです。

DCF法

DCF法はディスカウンテッド・キャッシュ・フローの略で、会社が将来生み出す価値をフリーキャッシュフローから推計し、資本コストで割り引いて、現在の企業価値を算定する方法です。

一言で言えば、推測した会社が将来生み出す価値を基に売却価格を決定する方法です。6年目以降は、将来得られる価値が確実ではないので、価値を減らして計算します。

簡易的な計算式は以下のとおりです。

r=割引率

1年目フリーキャッシュフロー1年目/1+r
2年目フリーキャッシュフロー2年目/(1+r)二乗
3年目フリーキャッシュフロー3年目/(1+r)三乗
4年目フリーキャッシュフロー4年目/(1+r)四乗
5年目フリーキャッシュフロー5年目/(1+r)五乗

類似会社比較法

類似会社比較法とは、売却対象となる企業と類似する上場企業の株価を基に事業価値を算定する方法です。

これは売却対象となる企業が非上場である場合に、上場企業であれば、株価×発行済株式総数を基に株主資本価値を算定することが可能であるために開発された手法です。

算定の流れとして、まず売却対象となる企業の経常利益を1,000万円とします。

次に倍率を計算します。業界や収益性などから決定した類似する上場企業の株主資本価値が100億円、経常利益が5億円とすると、倍率は100億円÷5億円=20倍となります。

20倍という倍率が売却対象会社にも当てはまる前提に基づき、以下のとおり計算します。

経常利益1,000万円×倍率20倍=株主資本価値2億円

このように「類似企業であれば、倍率も同じ傾向を示すはずだ」という仮定に依拠しているのが特徴です。

年買法

年買法は以下の計算式で企業価値、すなわち売却価額を求めます。

売却価額=時価純資産+営業利益×3年分(1~5年分)

ここで使用される営業利益は将来生み出すと予想される営業利益であり、営業権、すなわちのれんと言われるものです。のれんとは、会社の保有する技術やノウハウなどの無形資産を将来的な収益力と考える概念です。

倍数は譲受企業と譲渡企業で合意した年数が使用され、年数は利益が将来にわたって継続すると予想される年数です。

他の算定方法と比較すると、理論的ではありませんが、会社売却の初期段階で簡易的に企業価値を算定するために使用されます。

会社売却価額の決定要素

会社の売却価額の企業価値の算定方法について解説しましたが、実務上は必ずしも理論上の価額で売却できるわけではありません。

実際の売却価額は通常の取引と同様に需要と供給の関係で決定されます。つまり、会社に付加価値が認められると、理論上の価額以上で買収したい企業が見つかる可能性が高くなります。

売上高やシェアなどの業績

売却価額を左右する要素として最もわかりやすいものです。

会社の買収・子会社化によって新規事業に参入したい場合でも既存事業の拡大を目指す場合であっても、譲渡企業の売上高やシェアは重要な要素です。

売上高やシェアに関連して、検討事項になる数値について一覧にまとめてみました。

  • 売上高
  • 粗利
  • 営業利益
  • 当期純利益
  • 自己資本比率
  • 現預金や有価証券などの流動資産
  • 市場シェア
  • キャッシュフロー

売上高や営業利益などのPLに記載される数値は直近だけではなく、会社の成長性を見るために過去数年分の傾向も確認されるでしょう。

これらの数値は財務諸表から読み取ることのできるので、買収を検討する初期段階で確認する情報になります。

また、これらの数値が優れている会社はどの算定方法を選択しても、理論上の企業価値が高く算出されることになります。

大口取引先の有無

大口取引先の存在はPLやBSなどの財務諸表からは直接的に読み取ることのできない情報です。

継続的に取引がある顧客が大企業などの大口の取引先である場合には、継続的に大きな売上が期待できます。このような顧客は一度受注先を決めると簡単には変更しない為、受注が安定しており、外部からは新規契約の獲得が難しいので、交渉時に評価される可能性があります。

また、大企業相手に受注していることで自社の商品やサービスが優れているとみなされることもあります。

大口取引先との取引履歴について、買収候補先にインボイスを提出することによって、アピールすることが考えられます。また、買収候補先に決算書を提出している場合には勘定科目明細の売掛金の項目で顧客リストを確認されることも考えられるでしょう。

専門的な技術・ノウハウ

実は専門的な技術・ノウハウはM&A成約時に売却価額に加味されているものです。

譲渡企業のブランド力や技術力、ノウハウなどの見えない資産価値や強みを「のれん」や「超過収益力」、「営業権」と呼びます。

例えば、純資産額1億円の企業を1億2,000万円で買収した場合には差額金額の2,000万円がのれんです。過去にはのれんを加味して、売却価額が純資産額を大きく上回った例もあります。それだけ、技術やノウハウといった資産価値は売却価額決定時に大きな影響を及ぼすのです。

そのため、会社売却時に技術やノウハウについて上手にアピールすることが少しでも高く会社を売るために必要です。特許権や著作権などの証明が可能なものはもちろんのこと、自社特有の技術についても買収候補先に積極的に伝えましょう。

社員のスキル

社員のスキルといった人的資源ものれんの対象になります。

職種によっては資格がなければ、名乗ることが許されないものがあります。また、特定の資格を有していることで付加価値が認められる資格もあります。

例えば、金融業界のおいて資格を持たない営業職と中小企業診断士やFPの資格を持った営業職では社員の価値が異なります。

これらの資格やスキルは獲得する難易度が高いほど、需要に対して供給が追いついていないほど価値が高くなります。

M&Aによって、社員などの人的資源を獲得することができるため、社員の持つスキルや資格は魅力的に見えるでしょう。

会社理念・風土

他の要素に比べれば、優先順位は劣りますが、会社理念や風土などの目に見えない要素も売却価額の決定に影響を及ぼします。

簡単に言えば、会社理念や風土の一致性や親和性が高いほど、買収候補になりやすいのです。逆に不一致が顕著であると、買収後にスキルを持った社員の離職が相次ぎ、買収前に見込んでいた利益を獲得できないこともあります。

極端な例ですが、外資系ファンドに買収された日系企業が買収後に売上を大きく落としている事例は多々あります。これらの事例を見れば、会社理念や風土の一致性が重要であるとわかります。

会社を相場よりも高く売る方法

現状の売却価額よりも高く売るために準備できることや全く同じ事業内容や財務状況であっても少しでも高く売却するコツについて解説します。

シナジー効果を発揮する

M&Aにおけるシナジー効果とは、買い手である譲受企業と売り手である譲渡企業の経営資源を組み合わせることにより、単なる総和ではなく、総和以上の効果を生み出すことです。

過去のM&Aの事例を見ても、異業種間でも、同業種であっても買収後にシナジー効果を発揮し、市場シェアの拡大や売上向上に寄与した事例は枚挙に暇がありません。

本来、M&Aにおいては譲受企業がシナジー効果を見込める企業に買収を持ち掛けますが売却価額の交渉の段階で、譲受企業が気がついていないシナジー効果があれば、アピールしてもいいかもしれません。

財務状況の改善

財務状況の改善とは、売上高や営業利益の向上、自己資本比率の引き上げなどです。

財務情報はM&Aの時に確実に確認されるものですので、財務状況が良好であるほど、売却価額が上がるのは当然でしょう。

売上高を向上させるのは難しいかもしれませんが、経費を削減して、営業利益や最終利益を多くすることはできます。最終利益が向上すれば、自己資本が積み上がり、自己資本比率も改善されます。負債を返済して、自己資本比率を引き上げてもいいかもしれません。

売却のタイミング

適切なタイミングで売却することも売却価額を高くするポイントです。

売却のタイミングの判断次第では、純資産額以上に高く売却することができるかもしれません。

どのような時がいわゆる「売りどき」なのでしょうか?

考えるベストなタイミングは以下のとおりです。

  • 業績が好調な時
  • 規制緩和等によって参入が増えた時
  • 業界内のM&Aが活発化して、規模の大きい企業が誕生した時

自社の業績以外の要素はコントロール不可能ですので、業績が高いときほど売却のチャンスと言えるでしょう。

まとめ

この記事では、会社売却の相場の決定方法や要素などについて解説しました。

会社売却の相場は企業価値の算定方法やそれぞれのケースによって異なりますが、必ずしも算定された理論上の価額で売却されるわけではありません。

財務状況やのれんなどの要素が自社の魅力を高めて、より高く売ることにつながります。

また、理論上の売却価額が低かったとしても売却のタイミングを見極めたり、シナジー効果をアピールすることで、相場以上の売却価額を引き出せるかもしれません。

詳細かつ正確な売却価額についてはM&A仲介者や顧問税理士についてしっかり相談するのが良いでしょう。