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M&A仲介会社に支払う手数料の内訳
中小企業庁が公表している「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」によれば、M&Aの件数は増加傾向であり、2018年に3,850件と過去最高となりました。
背景には、業界を問わず、経営者の高齢化及び事業承継対策を理由として、自社を譲渡したい中小企業の増加などがあります。
大企業のみならず、中小企業のM&Aに関するニュースが身近なものになっていますが、M&A実施にはM&A仲介会社やM&Aコンサルタントなどのプロの専門家のサポートが不可欠です。
サポート提供に対しては様々な手数料がかかります。
大まかな手数料の内容は以下のとおりです。
- 相談料
- 着手金
- 中間報酬
- 月額報酬
- デュー・デリジェンス費用
- 成功報酬
依頼する際に手数料の内訳や相場を把握しておかないと、手元に残る利益が想像以上に少なくなる可能性があります。
以下でそれぞれの費用の概要について解説します。
相談料
相談料の相場は無料〜1万円程度です。
相談料とは、M&A仲介の依頼をする前にM&Aの検討や相談、最近の情勢について意見や簡単な資料を求める時にかかる手数料です。
弁護士への相談と同じようなもので、事前の相談料を無料としている会社も多いですが、専門的な判断や助言を求めるために相談料が発生する場合があります。
ただし、M&A件数の増加とともにM&A仲介会社やM&A専門コンサルタントの供給も増えており、顧客獲得のために相談料を無料としている場合が多いです。
着手金
M&A仲介会社などに依頼し、仲介サービスを受けることが決まり、業務委託契約を締結した段階で着手金が発生します。買収候補となる企業の一覧やその他調査費用に充当されています。
着手金の相場は100〜200万円程度ですが、最近では着手金そのものを廃止するM&A仲介会社も珍しくありません。着手金はM&Aに成約に至らなかったとしても返金されるものではありませんので、手元資金に限りがある場合やM&A対象を本格的に探すつもりがないのであれば、着手金がかからない仲介会社に依頼するのも一考です。
しかし、着手金を取らない仲介会社の場合には、登録している企業もM&Aの相手探しを本格的に開始していないケースもあります。
中間報酬
中間報酬、あるいは中間金と呼ばれる手数料です。
M&A交渉では、買い手側よりM&Aの基本条件を提示し、それを基に売り手が買い手候補を選定して、交渉を行う段階で基本合意書が締結されます。
中間報酬は基本合意書が締結された段階で支払う手数料です。
相場は0円〜100万円程度の固定報酬、または成功報酬費用の10%〜20%程度になります。
基本合意書は最終合意ではありませんので、デュー・デリジェンスの結果、成約に至らないこともありますが、着手金と同様に返還されることはありません。
月額報酬
月額報酬、またはリテイナーフィー(定額顧問料)と呼ばれる手数料です。
M&A仲介会社やM&Aコンサルタントに支払う月額手数料であり、正式依頼からM&A成約までは毎月請求される費用です。
相場は30〜200万円程度と会社によって費用の幅がありますが、最近では月額報酬を請求しない会社もたくさんあります。
M&Aの成約が遅れるほど、手数料の総額が増えてしまうので、最初から月額報酬が発生しない会社を選んでもよいでしょう。ただし、月額報酬が無料の場合には、中間報酬や成功報酬を高額に設定している場合もあります。
結局のところ、各手数料を別々に見るのではなく、総額で判断するようにしましょう。
デュー・デリジェンス費用
M&A交渉の段階では、売り手企業について情報の非対称が存在します。つまり、買い手は売り手が提示した情報だけで買収の可否を判断しないといけません。そこで、外部の専門家に依頼して、売り手企業の財務や法務、労務について監査を行います。これをデュー・デリジェンスと呼びます。
デュー・デリジェンス費用とは、このデュー・デリジェンスに対して発生する手数料であり、買収判断の最終段階で支払うことになります。。相場は上限が200万円程度ですが、最近では無料としている会社もあります。ただし、無料の場合には、中間報酬や成功報酬にその分上乗せされていることもあります。
成功報酬
成功報酬は名前の通り、M&Aの最終合意後に支払う手数料です。最終合意は詳細な合意事項を記載したもので、買い手・売り手双方に対して法的拘束力が発生しています。
成功報酬ですので、最終合意に至らなかった場合には手数料は発生しません。
相場については後述するレーマン方式によって算定されることが多いです。
また、相談料、着手金、中間報酬、月額報酬、デュー・デリジェンス費用などを無料としているM&A会社では、それらの手数料を成功報酬に上乗せしていることもあります。
M&Aの成功報酬とレーマン方式
M&Aにおいて成功報酬とは、買い手と売り手の最終合意が締結された後に支払う手数料です。
成功報酬の算定にあたって、最も一般的な成功報酬の体系がレーマン方式です。レーマン方式は、リーマン方式と呼ばれることもあります。
もともとはドイツ人で経営学の権威であるレーマン博士の学説を応用した成果分配方式であり、今では多くのM&A仲介会社に採用されています。
レーマン方式とは
レーマン方式は報酬基準額に応じて、報酬料率が変動する仕組みになっています。
仕組みは累進課税の逆バージョンであり、報酬基準額が大きいほど報酬料率は小さくなります。報酬料率は会社によって異なりますが、一般的な報酬料率は以下のとおりです。
報酬基準額 | 報酬料率 |
5億円までの部分 | 5% |
5億円を超え10億円までの部分 | 4% |
10億円を超え50億円までの部分 | 3% |
50億円を超え100億円までの部分 | 2% |
100億円を超える部分 | 1% |
このように報酬基準額と報酬料率が反比例する仕組みになっています。
また、成功報酬には最低手数料が設定されていることがほとんどですので、一定額を下回った場合でも最低手数料は支払うことになります。
レーマン方式での成功報酬事例
レーマン方式を使って、成功報酬を計算してみましょう。
<報酬基準額120億円の場合>
報酬基準額が5億円までの部分:5億円×5%=2,500万円
報酬基準額が5億円超え・10億円未満の部分:5億円×4%=2,000万円
報酬基準額が10億円超え・50億円未満の部分:40億円×3%=6,000万円
報酬基準額が50億円超え・100億円未満の部分:50億円×2%=1億円
報酬基準額が100億円を超える部分:20億円×1%=2,000万円
→2,500万円+2,000万円+6,000万円+1億円+2,000万円=2億2,500万円
<報酬基準額30億円の場合>
報酬基準額が5億円までの部分:5億円×5%=2,500万円
報酬基準額が5億円超え・10億円未満の部分:5億円×4%=2,000万円
報酬基準額が10億円超え・50億円未満の部分:20億円×3%=6,000万円
→2,500万円+2,000万円+6,000万円=1億500万円
<報酬基準額15億円の場合>
報酬基準額が5億円までの部分:5億円×5%=2,500万円
報酬基準額が5億円超え・10億円未満の部分:5億円×4%=2,000万円
報酬基準額が10億円超え・50億円未満の部分:5億円×3%=1,500万円
→2,500万円+2,000万円+1,500万円=6,000万円
<報酬基準額12億円の場合>
報酬基準額が5億円までの部分:5億円×5%=2,500万円
報酬基準額が5億円超え・10億円未満の部分:5億円×4%=2,000万円
報酬基準額が10億円超え・50億円未満の部分:2億円×3%=600万円
→2,500万円+2,000万円+600万円=5,100万円
<報酬基準額4億円の場合>
報酬基準額が5億円までの部分:4億円×5%=2,000万円
→2,000万円
注意したいのは上記の金額に消費税が含まれていないことです。成功報酬には消費税が発生しますので、成功報酬×10%分の消費税を見込んでおく必要があります。
逆レーマン方式とは?
レーマン方式はM&Aの成功報酬の体系として最も一般的なものです。
一方でなかには逆レーマン方式を採用しているM&A仲介会社もあるようです。
逆レーマン方式は、名称通り、報酬基準額が大きくなるほど、報酬料率が上がる仕組みになっています。
報酬基準額 | 報酬料率 |
5億円までの部分 | 1% |
5億円を超え10億円までの部分 | 2% |
10億円を超え50億円までの部分 | 3% |
50億円を超え100億円までの部分 | 4% |
100億円を超える部分 | 5% |
逆レーマン方式では、報酬基準額が大きくなるほど、報酬料率が高くなるので、大型M&Aでは費用が膨らみます。一方で小型のM&Aでは割安になるので、中小企業など資金に余裕がない会社がM&Aを行いたい場合に手数料を抑えることができます。
レーマン方式における報酬基準額
上述のようにレーマン方式では、報酬基準額×報酬料率によって成功報酬が決定されます。
報酬基準額の算出方法はM&A仲介会社によって異なります。
代表的な算出方法は以下のとおりです。
- 株式価値基準
- オーナー受取額基準
- 企業価値基準
- 移動総資産基準
報酬基準額 | 算出方法 |
株式価値基準 | 売却する株式に付けられた価値 |
オーナー受取額基準 | 売却する株式に付けられた価値+オーナー及び親族からの負債(役員借入金など) |
企業価値基準 | 売却する株式に付けられた価値+有利子負債(役員借入金や銀行借入金など) |
移動総資産基準 | 売却する株式に付けられた価値+すべての負債(役員借入金や銀行借入金、買掛金、前受金など) |
このように株式価値基準が最も低額で、逆に移動総資産基準が最も高額になります。
レーマン方式のメリット
成功報酬の算定について、多くのM&A仲介会社で採用されているレーマン方式ですが、依頼する企業から見てどのようなメリットがあるのでしょうか?
ここからは企業から見たレーマン方式のメリットについて解説します。
成功報酬の計算方法がシンプルかつ明快
M&Aは買収費用のほかにM&A仲介会社に支払う手数料も無視できません。手数料のうち、最も大きな割合を占めるのが成功報酬ですので、M&Aの検討時には当然ながら成功報酬について見当をつけておきたいものです。
レーマン方式では、報酬基準額さえ分かれば、依頼前からM&A仲介にかかる費用を概算できます。成功報酬について概算が判明すれば、買収費用と合わせて大まかな総額が分かりますので、M&Aの費用対効果をある程度予測できます。
高額なM&Aでは手数料が割安
報酬基準額に企業価値基準や移動総資産基準が採用されている場合には、金額が大きくなります。金額が大きい上に報酬料率が比例すると莫大な成功報酬になります。
その点、レーマン方式では、報酬基準額が高額になるほど、報酬料率が下がります。報酬基準額が高額であっても、報酬料率が反比例するため、成功報酬を抑えることができます。
株主資本の大きい企業や負債額の大きい企業を買収する時にはレーマン方式を採用しているM&A仲介会社に依頼していると割安感があるかもしれません。
M&Aが成立しない限り支払いが発生しない
レーマン方式では、報酬基準額×報酬料率で成功報酬が変動します。報酬基準額はM&Aが成約しない限り決定されません。つまり、レーマン方式では、M&Aが成約しない限りは成功報酬を支払う必要がないことになります。
他の報酬体系を採用しているM&A仲介会社と比較すると、依頼する企業にとってリスクの小さい報酬体系です。
M&A仲介会社にとっては成約しない限り、成功報酬が貰えませんので、成約に向けて活動してくれることを担保することができます。
レーマン方式のデメリット
依頼する企業にとってメリットの大きいレーマン方式。
一方で、ここからはレーマン方式についてデメリットや注意点についても見ていきましょう。
これらを理解した上でレーマン方式を採用しているM&A仲介会社に依頼すると、満足度も大きくなるでしょう。
少額のM&Aでは手数料が割高
報酬基準額と報酬料率が反比例するレーマン方式では、報酬基準額が少額であるM&A取引では、手数料の割高感があります。
最近では、M&Aの件数は増加傾向にありますが、大多数を占めるのは中小企業を売り手としたM&Aです。
中小企業の場合、株主資本が薄かったり、総資本の規模が小さい企業もあります。そして、どの報酬基準額の算定方法を選択しても、そのような中小企業の報酬基準額は当然小さくなります。
したがって、小規模のM&Aでは、報酬料率が高く、割高感があるかもしれません。
成約を強引に進められる可能性がある
レーマン方式では、完全成功報酬型の料金体系ですので、M&A仲介会社としては、M&Aが成約しないと成功報酬を受け取ることができません。
あくまでも可能性の話ですが、成功報酬を貰うために取引を強引に進める可能性があります。
また、M&Aの仲介会社にとって適当な報酬基準額になりそうな企業の買収案件を強引に勧めてくるかもしれません。
この点については、M&A仲介会社次第ですので、料金体系以前に依頼する時に見極める必要があります。
まとめ
M&A仲介会社に依頼する場合にかかる手数料の中に成功報酬があります。
成功報酬の料金体系で最も一般的なものがレーマン方式です。
レーマン方式では、報酬基準額と報酬料率をかけ合わせて成功報酬額を決定します。大規模なM&Aでは割安感があり、事前に費用の概算ができるといったメリットがあります。
一方で、少額なM&Aでは割高感があったり、成約に向けて強引に進められる可能性もあるので、仲介会社を選ぶ段階で見極めることも重要です。
M&Aの成功報酬は買収費用に次いで大きなウェイトを占める費用です。M&A仲介会社やM&Aコンサルタント等のM&A支援を行う会社によって成功報酬の金額や料金体系にバラツキがあるので、サービス利用前に十分確認しておきましょう。