目次
物流業界とは
物流業界とは、製造業や流通業など他の産業の「物の流れ」を担っている業界です。商品の運搬にとどまらず、商品の整理、検品、加工、梱包、保管、情報管理など、生産者から消費者までの過程のありとあらゆる業務を担っています。企業間、企業と個人間の様々な間に立って、取引を支える社会インフラと言えます。
物流業界では、特に以下の「物流の五大機能」を有している企業が物流の世界の優良企業とされているようです。
- 輸配送
- 保管
- 荷役
- 包装
- 流通加工
物流業界の業界構造の特徴は下請け構造にあります。企業より発注を受けた大手物流会社から下請けの中小企業や小規模事業者に下請けがされる仕組みです。
物流業界は典型的な労働集約型産業であり、一人あたりの対応可能な業務量には限りがあることから、規模のメリットが働きやすいと言われています。
物流業界と運送業界の違い
物流業界は「物の流れ」を担い、運送を含めた商品の整理、検品、加工、梱包、保管などを行っていると解説しました。
物流業界は運送業界とよく混同されますが、両者の違いはなんでしょうか?
総務省は「日本標準産業分類」において、以下の一覧の業界や業種をまとめて「運輸業」と定義しています。
- 鉄道業
- 道路旅客運送業
- 道路貨物運送業
- 水運業
- 航空運輸業
- 倉庫業
- 運輸に附帯するサービス業郵便業
つまり、トラックなどを使用して、物品の物理的移動や輸送を行うのが、運送事業であり、運送業界は物流業界に内包されると言うことができます。
物流業界の現状や課題
国土交通省が公表している「物流を取り巻く動向と物流施策の現状について」によれば、2017年の物流業界の営業収入は24兆円と非常に大きな産業となっています。労働就業者は約258万人と全産業就業者数の約4%を占めています。物流業界のうち最も大きな割合を占めるのがトラック運送業界であり、営業収入は16兆円と物流業界の約7割を占めます。
近年では、Amazonや楽天などのEC市場の拡大によって、運送事業は拡大を続けていますが、物流業界全体では市場規模は縮小傾向にあります。1990年の約65億トンから2018年には約48万トンまで減少を続け、長期的に衰退傾向にあります。
物流業界を取り巻く環境で、課題となっているのが慢性的な労働力不足です。物流業界は典型的な労働集約型産業ですので、売上がマンパワーに依存しています。しかし、上記の国土交通省のデータによれば、概ね7割の企業が労働力不足を感じています。さらに物流業界のうち大きなシェアを占める運送業界において、トラックドライバーの高齢化が深刻化しており、高齢層の退職等を契機として今後、労働力不足が深刻化する恐れがあります。
物流業界とM&A
ここまで物流業界の概要や課題などについて解説しました。物流業界はあらゆる産業の「物の流れ」を担う業界であり、日本における一大産業を形成しています。
しかし、国内市場の縮小や深刻な労働力不足に悩まされており、業界全体として変化を求める声が大きくなっています。これらを踏まえた上で、物流業界におけるM&Aについて解説します。
M&Aとは?
M&Aとは、”Merger And Acquisition”の略称です。Mergerとは合併、Acquisitionは買収という意味です。したがって、M&Aは直訳すると企業の合併・買収ということになります。広義には、2つ以上の会社が1つの会社に統合されたり、ある会社が他の会社を買収することです。ただし、一般的にはある会社が他の会社を買収し、経営権を獲得することを指します。
M&Aといえば、外資系ファンドが市場で株式を買い集めて、会社を乗っ取りというイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、近年では、売り手側は事業承継の手段として、買い手は自社の成長戦略の一環としてM&Aを行います。
中小企業庁によれば、国内のM&Aは活発化しており、毎年増加しています。1985年では全国で260件だった件数は2017年には3,050件を記録しています。さらに、中堅中小企業のM&Aに実績があり、中小企業のM&Aを支援する日本M&Aセンターによれば、2021年のM&A件数は2020年に比べて14.7%増加し、4,280件となりました。この数字は同社によれば、過去最多のものです。
物流業界におけるM&Aの現状
中小企業庁が公表している「中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題」によれば、中小企業の事業承継型のM&A件数は増加傾向にあります。
また、国土交通省が公表している「物流を取り巻く動向と物流施策の現状について」によれば、国内の物流業界の中小企業の割合は以下のとおりです。
産業 | 中小企業率 |
トラック運送事業 | 99.9% |
JR貨物 内航海運業 | 99.7% |
港湾運送業 | 88.4% |
鉄道利用運送事業 | 88.8% |
倉庫業 | 91.0% |
このように物流業界には、中小企業が多いことを考慮すると、物流業界のM&Aも増加傾向にあることが予想されます。
日本M&Aセンターによれば、物流企業が関係するM&A案件数は2019年が88件、2020年が91件でした。コロナ禍で他の多くの業界がM&Aに消極的になっているにもかかわらず、物流業界はコロナ前と同等、むしろ増加しています。日本M&Aセンターを仲介とする物流業界の成約実績も2019年比で1.5倍のペースで件数が伸びているようです。
物流業界のM&A事例
上記のとおり、物流業界におけるM&Aは増加傾向にあることが分かりました。
ここからは物流業界における実際のM&A事例をご紹介します。
実際の事例について確認することで、自社のM&Aの可能性やM&Aが実施される背景などがわかるかと思います。
M&A事例①ファイズホールディングス
・買い手
ファイズホールディングス:関東を中心に大型トラックを使用した貨物輸送サービス、店舗ルート配送、物流センターの運営などを行う総合物流会社
・売り手
ブリリアントトランスポート:物量やリードタイムを考慮した航空輸送や海上輸送、陸海空を組み合わせた国際一貫輸送を手掛ける
買い手であるファイズホールディングスが売り手であるブリリアントトランスポートの国際間輸送機能を活用して、事業を拡大することを目的にM&Aを決定。2021年4月に第三者割当増資引き受けにより株式を取得し、子会社化することを決定しました。売却価額は1,800万円で、買収による議決権所有割合は、51.0%となりました。
M&A事例②CREロジスティクスファンド投資法人
・買い手
CREロジスティクスファンド投資法人:CREグループの総合力を活かした物流特化型リート
・売り手
CRE:物流施設に特化した不動産会社、不動産の賃貸管理、開発、アセットマネジメントなどを手掛ける
買い手であるCREロジスティクスファンド投資法人がポートフォリオの適正化や分配金の長期安定創出を目的として、2021年1月にM&Aを実施しました。本M&Aでは、売り手であるCREが自社保有の物流不動産を売却することによって成立しました。
M&A事例③アサヒロジスティクス
・買い手
アサヒロジスティクス:500箇所を超える物流拠点やスーパーマーケット、コンビニエンスストアー、レストラン、居酒屋などの店舗へ食品の供給を行う中堅物流会社
・売り手
フレッシュ・ロジスティック:首都圏の百貨店様を中心に、エキナカや複合商業施設などの食品分野に特化した提案型の物流会社。同社は明治の連結子会社。
M&A実施の決定社はフレッシュ・ロジスティックの親会社である明治です。明治は
フレッシュ・ロジスティックが主力事業とするチルド食品を中心とした食品配送センターのさらなる成長を実現し発展を目指すためにM&Aを決定しました。明治が連結子会社である株式会社フレッシュ・ロジスティックの株式を、アサヒロジスティクス株式会社に全て譲渡することで成約となりました。株式の売却価額は非公表となっています。
M&A事例④ハマキョウレックス
・買い手
ハマキョウレックス:物流センター事業を核に物流と流通をリンクさせた総合物流をカバーする3PL(物流一括受託)企業
・売り手①
栄進急送:大阪・兵庫を中心に輸送業務と倉庫業務を展開する物流会社
・売り手②
マルコ物流:関西圏で食品を中心とした3PLサービスを展開する物流会社
ハマキョウレックスは関西エリアでの物流センター事業(3PL事業)を拡充することを目的として、栄進急送とマルコ物流の物流2社の全株式を取得し、2021年2月に子会社化しました。栄進急送とマルコ物流の物流2社は兄弟会社の関係にあり、両社の社長を務める村上功氏がそれぞれの筆頭株主でした。
M&A事例⑤SBSフレック
・買い手
SBSフレック:食品物流を主体とした総合物流企業として物流業務全般を一括で引き受ける3PLのサービスを提供
・売り手
日の丸急送:四国・中国地方・関西方面への運送、配送から梱包・荷役保管・物流管理、食品流通加工、物流システム開発まで総合的な物流サービスを提供
売り手である日の丸急送が輸配送に加え倉庫管理や情報業務を担う総合物流企業になることを目的として、SBSフレックへの傘下入りを希望しました。SBSフレックは日ノ丸急送の株式の49%を2020年8月1日に取得しており、2021年4月に残り51 %を追加で取得しました。
M&A事例⑥SBSロジコム
・買い手
SBSロジコム:運送事業・倉庫業・不動産賃貸管理業などを行う物流事業会社
・売り手
旭新運輸開発:倉庫サービスや小ロット共同配送、家具配送便、貸切チャーター便、企業専属便から3PLサービス、物流コンサルティングまで、関西を拠点として西日本一円や北海道で多様なサービスを展開
旭新運輸開発の経営者はM&Aについて、「当社が顧客と共に成長し、社員の幸せを実現する会社を目指すためにも、安定した経営基盤をもつSBSグループのもとで従業員が安心して働き、物流を学び成長を遂げ挑戦し続け、着実な社業の伸張を遂げたいと考えている」と述べており、経営基盤の安定化が目的となっています。
2021年4月に、SBSロジコムが旭新運輸開発の全株式を取得し子会社化しました。株式の売却価額は非公表となっています。
M&A事例⑦SBSホールディングス
・買い手
SBSホールディングス:輸配送、倉庫・物流センター、 流通加工から国際物流、そして3PLまで物流に関わるあらゆるサービスを提供する総合物流会社
・売り手
東芝ロジスティクス:電力設備機器などの重量物から医療機器、半導体などさまざまな分野の貨物の輸送を手掛ける物流企業
SBSホールディングスは東芝ロジスティクスが持つ物流事業のノウハウ獲得や、海外ネットワークの強化、サービスラインナップのさらなる拡充を目的にM&Aを実施しました。
2020年11月に、SBSホールディングスが東芝ロジスティクスの普通株式66.6%を取得することで、子会社にしました。
物流業界のM&Aにおける売り手側のメリット
物流業界におけるM&A件数が増加していることは説明したとおりです。件数が増加しているのは、メリットがあるからに他なりません。
物流業界の企業がM&Aによって、外部の第三者に自社を売却した時にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
深刻な後継者不足の解決
国土交通省が公表している「物流を取り巻く動向と物流施策の現状について」によれば、国内の物流企業の多くが中小企業です。
また、中小企業庁が公表している「中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題」によれば、2025年までに、経営者の平均引退年齢である70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人ですが、そのうち約半数の127万者が後継者未定となっています。
つまり、物流事業を営む企業の多くが後継者不足に悩まされていることが予想されます。経営者が引退した時点で後継者が不在であると、たとえ利益を挙げている企業であっても黒字廃業となります。雇用は失われ、取引先は発注先を失ってしまいます。しかし、M&Aが成約すれば、事業を継続することが可能になります。
経営の安定化
物流業界に限らず、多くの業界ではM&Aが成立する場合に、買い手が大企業、売り手が中小企業というケースが大半を占めています。つまり、自社を売却する中小企業の多くは大企業の支配下に入ります。
大企業は中小企業と比較すると、手元資金に余裕があり、営業基盤も盤石です。このような大企業の支配下に入ることで、自社の事業への投資がなされたり、親会社の営業基盤をフルに活用することで、事業の成長スピードの加速が期待できます。
親会社の優れたブランドや知名度によって、新規ドライバーの獲得も容易になり、労働力不足も解決されるかもしれません。
このようにM&Aによって大手企業の支配下に入ることで、自社の経営を安定させる効果が期待されます。
経営者が売却利益を獲得できる
中小企業の場合、経営者が会社の全株式を保有していることがほとんどです。その場合、株式を譲渡することで、売却益を得ることができます。
純資産5,000万円、営業利益1,000万円と仮定して、売却益の計算方法として一般的な純資産法を用いて計算してみましょう。
純資産法では、会社の純資産に営業利益3年分を加えて計算します。
したがって、売却利益=5,000万円+1,000万円×3年分=8,000万円となります。
一度に8,000万円もの資金を獲得することで、資金を新しい事業に投資したり、借金の返済に充当することができます。
また、M&Aと同時に経営者を引退して、リタイア生活に入ることもできます。
物流業界のM&Aにおける買い手側のメリット
物流業界におけるM&Aは買い手企業にも多くのメリットをもたらします。ここから解説する買い手企業のメリットは主に物流の中小企業を買収した場合ですが、ほとんどの物流会社が中小企業ですので、ほとんどのM&Aに当てはまります。
事業規模やシェアの拡大
M&Aによって、新たに物流会社を買収した場合には、譲渡企業が保有する取引先、顧客、不動産や設備などの事業用資産、ノウハウ、技術などを取得することになり、事業規模の拡大やシェアの拡大が期待できます。
物流業界では、トラックドライバーの人材不足が深刻化していますが、譲渡企業のトラックドライバーが自社の所属となるため、人材不足が緩和されます。物流事業が労働集約型産業であることを考慮すると、労働力が強化された分だけ売上が増加するでしょう。また、顧客や取引先が増え、取引量が大きくなることで、取引先に対する交渉が有利になります。
国土交通省が公表している「物流を取り巻く動向と物流施策の現状について」によれば、物流業界は長期的に衰退傾向にあります。限られたパイを奪い合う構図になっており、規模が大きくなることは、市場でシェアを確保するために重要なことです。
物流事業への新規参入が容易になる
物流業界に属していない企業が物流会社を買収することで、新規事業参入が容易になります。通常、新しく事業を立ち上げるためには労働者や顧客の獲得、技術の習得などに膨大な時間とコストがかかり、初期投資から暫くの間は赤字で推移することが少なくありません。
しかし、すでに物流会社として機能している会社を買収することで、遥かに低いコストで新規事業に参入することができます。
また、物流会社であっても運送事業だけは外注していることもあります。これは事故リスクなどが高い運送事業を自社で運営しないことでリスクを軽減するためです。一方で、そのような物流会社であっても運送事業を買収し、外注から内製化することでコストを削減する動きもあります。このような場合にも運送事業への新規事業参入が容易になります。
シナジー効果を発揮できる
M&Aにおけるシナジー効果とは、2つあるいは複数の企業や事業が統合されることで、より大きな成果を生み出すことです。例えば、A社の売上をA、B社の売上をBとした場合に、両社が統合すると、単純計算でA+Bとなりますが、M&AによってA+B以上の効果が得られることがあります。
期待できるシナジー効果の例は以下のとおりです。
- 仕入れ作業の効率化や取引先に対する交渉力の強化による仕入れコスト削減
- 事業用資産や技術、ノウハウの共有による生産性向上
- 物流事業や運送事業の内製化によるコスト削減
- ブランド力向上や販路拡大による売上向上
- 組織の合理化によるコスト削減
- 財務基盤の強化による資金調達能力の向上
- マネジメント部門の統合によるコスト削減
上記以外にも様々な効果が期待できます。
物流業界のM&Aにおける売り手側のデメリット
物流業界におけるM&Aは事業承継の対策として、また経営者のセカンドライフを豊かなものにするために有効です。しかし、売り手にとってM&Aはいいことばかりではなく、デメリットも存在します。メリットとデメリットを両方理解した上で、自社を売却するかどうかの判断をしましょう。
買収企業が現れない
譲渡企業に特別な技術やブランドがある場合などを除いて、M&Aは完全に買い手市場です。自社の売却を希望して、M&Aの仲介会社に依頼しても、買収してくれる企業が見つからない場合や希望する条件で合意に至らないことは珍しくありません。最終合意に到達する前に経営者が引退せざるを得なくなると黒字廃業が現実のものになります。
自社の買収に興味のある企業が見つかった場合には、交渉によって条件や売却価額を決めることになりますが、譲渡企業の財務状態や経営資源、M&A後に期待されるシナジーなどを考慮して、条件を詰めるため希望通りの合意に至らない可能性もあります。
黒字廃業を避けるためには、経営者が引退年齢に達するより早い時期からM&A仲介会社に依頼することや親族内承継や従業員承継など他の承継手段も並行して検討することが重要です。
取引先との関係悪化
M&Aによって買い手企業に自社株式を譲渡し、支配権が移行すると、取引の条件を親会社に合わせることは珍しくありません。特に物流倉庫の利用料金や貨物の運送料金などの料金設定の見直しは取引先に大きな影響があります。契約条件の変更については、M&A直後に一方的に行うのではなく、取引先との合意のもとに実施するようにしましょう。
また、M&Aの実施段階で取引先や社員、金融機関などの利害関係者にM&Aの事実を公表することになります。その段階から、今後の取引に何の影響もないことを丁寧に説明する必要があります。さらに、買い手企業との交渉段階で、取引先の反発を招きかねない取引条件の変更を行わないことについて合意しておくのも一つの手です。
社員の大量離職
規模の小さい中小企業にとって社員一人あたりの利益への貢献度は大きいです。特に物流業界では圧倒的な人手不足ですので、社員の離職は他の社員の業務量の増大を招き、社員の大量離職に繋がりかねません。
M&Aが実施されると、給与や労働条件、退職者向けの退職金の支給や退職者制度についても統合が行われます。これらの条件が労働者にとって不利に変更されることもあります。そのため、M&Aが実施されると、離職を考える社員もたくさんいます。調査会社当社クレイア・コンサルティングが2016年に実施した調査結果によれば、M&Aが発表される時点で譲渡企業の社員の4割以上が転職を検討し、実施されると数年以内に3割の社員が離職しているようです。
社員の大量離職を防ぐためにも、M&Aの交渉段階で自社の社員に不利な労働条件の変更を行わないように合意することが必要になります。
物流業界のM&Aにおける買い手側のデメリット
M&Aを検討する買い手企業は既存の事業の拡大や新規事業への参入など買収後の大きな成果を求めています。しかし、M&Aによって不測の損害を被ったり、当初想定していた恩恵が得られないこともあります。
ここからは、買い手企業にとってのデメリットについて解説します。
簿外債務や偶発債務の発覚
簿外債務とは、会計帳簿の外にある債務のことで、貸借対照表に計上されない債務のことです。偶発債務とは、現時点では債務ではないが、将来一定の条件が成立した場合に発生する債務のことです。
それぞれの例として以下の債務があります。
簿外債務 | 偶発債務 |
・未払い賃金・買掛金・債務保証・リース債務・未払社会保険料・賞与引当金・退職給付引当金・訴訟による損害賠償金 | ・債務務保証・訴訟から生ずる損害賠償責任・手形割引や手形の裏書・課徴金 |
これらの債務を引き継ぐと将来的に大きな損害を被る可能性があります。そのようなリスクを低減するためには、デュー・デリジェンスを徹底して行い、必要に応じて、買収価額を下げる必要があります。
文化やシステムの統合に時間がかかる
ここで重要になるのがPMIというプロセスです。PMIとは、M&A(合併・買収)後の統合プロセスであり、合併や買収の動機となる潜在的な効率と相乗効果を実現することを目的としています。
M&Aは最終合意を締結して、売却代金を支払ったら完了するものではありません。最終合意は出発点に過ぎず、合意後に買収前に想定していた効果を得るためにプロセスを推進するのです。
こんお統合プロセスは簡単なものではありません。譲渡企業では創立から長年培われてきた組織文化が根付いており、譲受企業の文化と統合する必要があります。組織文化のみならず、人事評価制度やIT系システムの統合など社内の全部署にまたがる統合が必要になります。これらの統合には多くの時間とコストがかかり、合併する企業の規模が大きいほど、必要な時間とコストも増大します。
許認可が承継できない
特定の事業を運営するためには官庁や地方自治体から許認可を得ている必要があります。
例えば、物流事業を経営するためには以下の許認可が必要となります。
- 倉庫業登録
- 貨物自動車運送事業許可
- 貨物利用運送事業登録許可
これらの許認可は買収企業が物流事業に新規参入する時に必要となります。また、許認可のなかには買収によって自動的に承継されるものと買収後に新規登録が必要となるものがあります。許認可が登録できていない段階で事業を行えば法令違反となるので、注意が必要です。また、譲渡企業が許認可を得ていない事実を知らずにM&Aによって許認可が自動的に承継されるものと誤解していると、故意でなくともペナルティが発生します。
まとめ
この記事では、物流業界やM&Aの概要、物流業界におけるM&Aの現状、そして物流業界におけるM&Aで期待されるメリットについて解説しました。
国内市場の縮小、中小企業が大半を占める産業構造、深刻な労働力不足などに関連して、物流業界におけるM&Aのニーズは今後さらに活発化すると思われます。
物流業界におけるM&Aは深刻な後継者不足を解消し、円滑な事業承継を進める切り札となるものです。
ただし、物流会社、特に運送会社の買収にはメリットだけではなく、デメリットもあるので、メリットや問題点を理解した上で進めましょう。実際にM&Aを検討し、進めていくためには顧問税理士や金融機関、M&Aセンター、地域の商工会議所の専門家に相談しながら進めることになります。最初は無料で相談できる機関を探して、検討の材料としてもよいでしょう。